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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)3110号 判決 1977年5月20日

原告

山村淑子

被告

佐藤正和

ほか一名

主文

被告らは、各自、原告に対し、金四二〇万一六二二円及びうち金三八二万一六二二円に対する昭和四六年六月二九日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは、各自、原告に対し、金一一二七万五七八三円及びうち金一〇三〇万五七八三円に対する昭和四六年六月二九日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年六月二九日午後三時四〇分頃

2  場所 尼崎市杭瀬一ノ坪一六番地先 国道二号線上

3  加害車 普通貨物自動車(大阪四四の八一三三号)

右運転者 被告 佐藤正和(以下「被告佐藤」という。)

4  被害者 原告

5  態様 現場道路を西進してきた加害車が、停止中の原告運転車両(以下「被害車」という。)に追突した。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告株式会社竹田計器製作所(以下「被告会社」という。)は、加害車を業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。

2  使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告佐藤の使用者であり、被告佐藤が被告会社の業務の執行として加害車を運転中後記過失により本件事故を発生させた。

3  一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告佐藤は、運転中脇見をし、前方に対する注視を怠つた過失により、停止中の被害車を発見するのが遅れ、本件事故を発生させた。

三  損害

1  受傷、治療経過等

(一) 受傷

頸部挫傷、頸部外傷Ⅱ型。なお、原告が本件事故後別の機会に、被告主張のような新たな傷害を受けた事実はない。

(二) 治療経過

入院 劉外科病院に昭和四六年七月二六日から同年九月一八日まで

通院 (1)昭和四六年六月二九日から昭和四八年一一月九日までの間に三五七日(昭和四六年六月二九日岩崎病院に、同月三〇日から同年七月二四日まで円満字外科医院に、同年九月二〇日から同年一二月一〇日まで劉外科病院に、同年一一月八日から同月一三日まで労災病院に、同年一二月一四日から昭和四七年八月一四日まで大歳医院に、同年三月七日から同月一七日まで執行耳鼻科に、同年八月一六日から昭和四八年九月二九日まで西宮市立中央病院に、同年九月一〇日から同年一一月九日まで庄内病院に各通院)

(2)昭和四八年一一月一〇日以降現在に至るまで、毎週二~三回の割合で、少なくとも合計一四〇日以上庄内病院に通院している。

(三) 後遺症

原告には、前記受傷による後遺症として、神経機能障害が残り、右上肢特に橈骨神経領域の運動不全・知覚鈍麻、平衡機能異常による歩行障害が認められるほか、各種の自律神経失調症状(不随意なあくびの頻発、流涙、電話のベルなどの騒音に対し過敏であること、一時的な高熱の突発、体重の急激な増減、右上下肢のしびれ等)を呈しており、毎日寝たきり(なお、睡眠時間も異常に多く、平均人の二~三倍である。)で、階段の昇降、自由な立居振舞いも、ほとんど独力ではできず、また、夫との性生活も営みえない状態にある(以上の後遺障害は、後遺障害別等級表七級に該当する。)。

2  治療関係費

(一) 治療費 二二万六四九三円

執行耳鼻科分 一万一七六〇円

西宮市立中央病院分 七万二七一三円

庄内病院分 一四万二〇二〇円

(二) 入院雑費 一万六五〇〇円

入院中一日三〇〇円の割合による五五日分

(三) 入院付添費 六万六〇〇〇円

入院中一日一二〇〇円の割合による五五日分

(四) 通院費 二三万五五五〇円

前記1(二)(1)の通院(三五七日)につき一日一五〇円の割合による通院雑費を要し、また、前記1(二)(2)の通院(一四〇日)につき一日三〇〇円の割合による交通費及び一日一〇〇〇円の割合による付添費を要した。

3  逸失利益

(一) 休業損害 二五〇万四四〇〇円

原告は、事故当時四二歳で、夫である訴外山村幸雄(以下「訴外幸雄」という。)が経営する自動車修理店で納車、集金、会計、経理等の事務を担当するとともに、主婦として家事労働に従事し、月平均五万二二〇〇円の賃金を得、また、年平均一五万六〇〇〇円の特別給与(賞与)を得ていたが、本件事故により事故時から四二か月間休業を余儀なくされ、その間少なくとも右月平均賃金四二か月分と年平均特別給与二年分を加算した合計二五〇万四四〇〇円の収入を失つたものである。

(二) 将来の逸失利益 三五〇万七八四〇円

原告は、前記後遺障害のため、少なくとも右休業期間後一〇年間にわたりその労働能力を五六パーセント喪失したものであるところ、事故がなければその間も事故当時の平均賃金(月額五万二二〇〇円)と同額程度の収入を得ることができるはずであつたと考えられるから、原告の将来の逸失利益を右収入額にもとづいて算定すると、三五〇万七八四〇円となる。

4  慰藉料 三七五万円

原告は、本件事故により前記のとおり既に長期の療養を余儀なくされ、日々前記のような後遺障害に悩まされており、本件事故が原告の家族に及ぼしている影響もまた深刻である。原告は、今後もなお回復の可能性を求めて療養生活を続けていかなければならず、そのために更に多大の出費を強いられるものと予想される。本件事故が被告佐藤の一方的な過失によつて発生したものであること、被告らが見舞いないし賠償金の内払等について十分な配慮をしていないことなどの事情も、原告の精神的苦痛を一層増大させているものといえる。

5  弁護士費用 九七万円

四  結論

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は、不法行為の日から民法所定年五分の割合による。ただし、弁護士費用に対する分は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

請求原因一、二は認める。

同三1のうち(二)の入院の事実並びに岩崎病院及び円満字外科医院への通院の事実は認めるが、その余の事実は争う。原告は、本件事故により極めて軽度の頸部捻挫の傷害を受けたにすぎず、昭和四六年七月下旬頃何らかの原因により頭部外傷Ⅱ型、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を受け、更に、昭和四七年八月二四日別の交通事故により受傷しているものであり、原告主張の傷害及び後遺障害と本件事故との間には、因果関係がない。また、仮に原告に本件事故による後遺障害が存するとしても、それは、せいぜい後遺障害別等級表一四級程度のものである。

同三の2ないし5は不知(ただし、原告が事故当時四二歳であつたことは認める。)。

第四証拠関係〔略〕

理由

第一事故の発生及び責任原因

請求原因一の事実及び同二の1、3の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告会社は自賠法三条により、被告佐藤は民法七〇九条により、それぞれ本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

第二損害

一  受傷、治療経過等

成立に争いのない甲第一号証の五、七、八、九、一一、一四、第二号証の三、第一二号証の一、二、第一六、第一七号証、証人山村幸雄の証言(一、二回)及びこれにより成立を認めうる甲第一号証の一〇、第二号証の二、四、五、第一〇号証の一、第一八号証の一三ないし二〇、第一九号証の一ないし四五、弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第二一号証、証人金井信博、同山村貞行、同劉日出也の各証言、原告本人の尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、停止中の被害車運転席において、同車に加害車が時速約三〇キロメートルの速度で追突した際の衝撃により頭部・頸部を前後に振られ、悪心が生じたため、事故直後、岩崎病院において診察を受け(同病院受診の事実は、当事者間に争いがない。)、約一〇日間の休業を要する頸部捻挫の傷害を負つたものと診断されたこと、ところが、事故の翌日から発熱し、頸部痛、頭痛、食欲不振、左下肢のしびれ等の症状を呈したため、昭和四六年六月三〇日から同年七月二四日までの間に二〇日円満字外科医院に通院し(同病院への通院の事実は、当事者間に争いがない。)、治療を受けるとともに、身体の安静に努めたが、発熱が治まらず、右の各症状も悪化してきたので、同年七月二六日劉外科病院を受診し、検査を受けたところ、脳脊髄圧の亢進(二〇〇ミリ水)が認められ(なお、レントゲン写真において、頸椎・腰椎の異常は認められなかつた。)、約一カ月の安静加療を要する頭部外傷Ⅱ型の傷害を負つていると診断され(その後、自覚症状により頸椎捻挫・腰椎捻挫の傷害をも負つている旨診断された。)、右七月二六日から同年九月一八日まで同病院に入院して(同病院入院の事実は、当事者間に争いがない。)

脳脊髄圧降下注射、後頭神経ブロツク、牽引等の治療を受けたこと、その結果、脳脊髄圧が正常に戻つたのを機に退院し、引き続き同年九月二〇日から昭和四七年一一月一四日までの間に四八日同病院に通院し治療を受けたが、その過程において、症状が軽快せず、入通院期間が長引くにつれて、次第に「頭が重苦しく、ビリビリした痛みが尾底骨まで走る。左手に鈍痛を感じ、重いものが持てなくなつた。顔の左半分が重苦しく、左眼が時々見えにくくなる。耳鳴がする。涙が出る。腰が痛い。右足がしびれて力が入らないような気がする。左胸から左手にかけてひきつるような痛みを感じる。疲れやすい。根気がなくなつた。手足が冷たく感ずる」等神経症的な多彩な愁訴を訴えるようになつた(なお、同病院において昭和四七年七月一二日実施した脳波検査の結果は、スライスリー・アブノルマンであつた。)こと

2  原告は、右劉外科病院通院中、これに平行して昭和四六年一一月頃労災病院に、同年一二月一四日から昭和四七年八月一四日までの間に七三日大歳医院に、昭和四七年三月七日から同月一七日までの間に四日執行耳鼻科にそれぞれ通院して治療を受け、更に、被告会社から公立病院における診断書を提出してほしい旨の要求を受けたこともあつて、昭和四七年八月一六日から昭和四八年九月二九日までの間に五八日西宮市立中央病院に通院したこと、右西宮市立中央病院に通院を始めた頃には、右後頭部・頸部・胸部及び右上肢にかけての疼痛、騒音過敏、流涙、あくびの頻発、右側聴力異常等の愁訴があり、同病院脳神経外科において、右大後頭神経圧痛、右側下肩胛骨神経圧痛、腱反射亢進等の神経学的所見(脳波検査結果は正常)及び本件事故後の経過により外傷後の頸部症候群と診断され、神経ブロツク、血流循環改善剤・消炎剤・精神安定剤の投与等の治療を受けた結果、後頭部痛については著明な改善を示し、その他の種々の愁訴についても、一旦は改善の傾向を見せたものの、症状が残存・持続することに対する不安感に加え、前記のとおり被告会社から診断書を要求されたことなどを苦にするための心労が重なつて、次第に持続的な自律神経失調状態に陥り、同病院への通院をやめる頃には、上肢殊に右手の脱力、右肩から右側頭部にかけての痛み、右手足のしびれ、頭痛等の神経症状がなお残存する外、種々の自律神経失調症状(感情が不安定で焦燥感・易刺激性が強く、騒音過敏、流涙、あくびの頻発等の既存症状の外に、体重の著明な増減、腹部膨満、対話困難、電話聴取困難等の症状が加わつた。)を呈するようになつていたこと

3  原告は、右西宮市立中央病院通院中、更に、庄内病院にも通院し始め(昭和四八年九月一〇日から昭和五〇年一〇月三一日までの間に二七三日通院し、その後も同病院への通院を続けている。)、中枢神経賦括剤、精神安定剤の投与等の治療を受けたが、前記種々の神経症状及び自律神経失調症状は回復を見ず、同病院は、昭和五〇年一一月五日付の診断書をもつて原告の症状につき次のような診断を行つていること

(一) (整形外科診察所見)愁訴は、右半身の痛み、特に右上下肢の痛み及び知覚障害・頸椎可動或は著しく障害され、左屈時に激しい右上肢放散痛が拇示指に至る。右大後頭三叉神経症候群陽性、右上腕神経叢圧痛、ジヤクソンテスト陽性、スパーリングテスト(右)陽性、イートンテスト(右)陽性、アレンテスト(右)陽性・右拇指はM・I・P・Iで屈曲拘縮位をとり、他覚的に伸展すると、上肢、肩、頸部に激しい放散痛をきたし、その後数分間痛みを訴える。右上肢全体に知覚鈍麻を認めるが、特に橈骨神経支配域に著しい。右手握力低下。日常生活ではしの使用、書字は、拇指以外の指でかろうじて行い、洗面は左手のみ、タオルは絞れない。ひも結び不能。右下肢ラセギユー症状、腱反射異常(左は低下、右は消失)。右下肢全体に知覚鈍麻、特に右大腿外側は知覚消失。右第1趾背屈力は完全消失。歩行は一〇〇メートル以内、坐位(いす)は約三〇分可能。階段の昇降は、手すりを使用して可能。

(二) (脳神経外科診察所見)右上肢の軽度の運動麻痺及び知覚異常を認めたが、他の神経学的検査、頭蓋内単純写、脳波眼底所見において頭蓋内病変を疑わしめる異常所見はない。

(三) (神経科・精神科診察所見)精神的には不安感・焦燥を示すこと多く、時に易怒的・易刺激的となる。周囲の音に対して過敏で、焦燥・不安感を容易に誘発する。また、注意の集中困難記銘力低下を訴え、全体的な精神所見は、神経衰弱様状態である。

(四) (眼科診察所見)両眼調節不全麻痺を認める。

(五) (耳鼻科診察所見)平衡機能異常を認める。

(六) (総合意見)症状固定の時期と認められる。右(一)ないし(五)の各科診断所見やあくびが不随意に頻発することからして、神経機能障害が認められ、これにより服することができる労務が相当な程度に制限されると考えられる。予後に関しては不明。

4  原告の症状は、その後もほとんど変化がなく現在に至つていること

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右認定の原告の受傷状況、治療経過、症状の推移等に関する事実に、成立に争いのない乙第二号証の三及び証人金井信博、同劉日出也、同土井俊男の各証言中原告の症状についての医師の意見が述べられている記載ないし証言部分並びに経験則をも合わせて考慮すると、原告の現在の症状と本件事故との関連性については、次のように解するのが相当である。即ち、

1  原告は、本件事故により頸部捻挫、頭部外傷(Ⅱ型)の傷害を受け、頭部外傷により亢進した脳脊髄圧は、その後の治療により正常に戻つたものの、頸部捻挫により頸部組織が損傷されたことに起因する頸神経の機能異常は、神経ブロツク、消炎剤投与等の治療にもかかわらず現在まで持続しており、原告の右上肢の各種神経症状(痛み、しびれ、知覚鈍麻、脱力等)は、右の頸神経機能異常にもとづくものと考えられる。ただし、右のような神経症状が長期にわたり持続している点については、原告自身の心因的要素(症状が回復しないことに対する不安や被告らとの間の賠償問題が解決しないことによる心理的負担等)がかなり影響を与えていると思われる(頸椎の著しい運動制限及び右拇指の拘縮は、原告が痛み等の刺激に対し敏感となつていることなどのため、右各部位の組織が過緊張状態にあることによるものと考えられ、また、右のような頸部の持続的な緊張状態は、当然事故時に損傷した頸部組織に悪影響を及ぼしているであろう。)。なお、被告らは、原告が本件事故後再度何らかの事故に遭い受傷したと主張し、原告主張の受傷・後遺障害と本件事故との間の因果関係を争うが、原告が本件事故後頸部・頭部に傷害を受けるような事故に遭つたことをうかがわせるに足る証拠はないから(原告を診察した各医師の診断書の記載に差異が存するのは、被告らの指摘するとおりであるが、前認定の原告の治療経過、症状の推移及び証人金井信博、同劉日出也の各証言からすると、本件における各診断書記載の差異は、少なくとも頸部・頭部の受傷に関する限り、原告の症状の変化、診断方法・診断用語法の差異等により生じたものと解するのが相当であり、これをもつて別の事故の存在をうかがわせるものとはなしえないというべきである。)、被告らの右主張は採用し難い。

2  各種の自律神経失調症状は、本件事故により自律神経自体が直接損傷を受けたことによるものではなく、右症状の発現には前記の原告自身の心因的要素が大きく作用しているものと考えられる。そして、自律神経失調状態の悪化と心因的要素の深刻化とが相互に悪循環を繰り返した結果、遂に神経衰弱様状態に陥つたものと解せられる。

3  両眼調節不全麻痺、平衡機能異常は、脳幹部の機能障害によるものと思われるが、右機能障害が脳幹部の器質的変化により生じている可能性は少なく、むしろ、その他の事由、例えば自律神経失調にもとづく脳幹部血流循環不全や頸部の異常緊張等により右機能障害が生じている可能性の方が強いと解される。

4  腰部神経の機能異常によるものと思われる右下肢の神経症状(痛み、しびれ、知覚鈍麻、右第1趾の背屈力消失等)は、本件事故に起因するものとは認め難い。

二  治療関係費

1  治療費 二二万六四九三円

前掲 甲第一〇号証の一、成立に争いのない甲第三号証の二、五ないし六七、第四号証の一ないし四、証人山村幸雄の証言(一、二回)及びこれにより成立を認めうる甲第一〇号証の二、第一三号証の一ないし一九、第一四号証の一ないし六一、第一五号証の一ないし六八並びに前認定の原告の治療経過によれば、原告は、本件事故による受傷を治療するため、少なくとも執行耳鼻科分一万一七六〇円、西宮市中央病院分七万二七一三円、庄内病院分一四万二〇二〇円、合計二二万六四九三円の治療費を負担し、同額相当の損害を被つたことが認められる(原告の右下肢の神経症状については、本件事故との間の因果関係を認めえないことは前示のとおりであるが、前認定の原告の治療経過からは、原告の負担した右治療費の中に、右神経症状の治療のために生じた治療費が含まれていることはうかがえず、他にこれをうかがわせる証拠はないから、右治療費相当の損害は、その全額につき本件事故と因果関係があるものというべきである。)。

2  入院雑費 一万六五〇〇円

原告が劉外科病院に五五日間入院したことは前認定のとおりであり、右入院が本件事故による受傷を治療するため必要なものであつたこともまた、前認定の原告の治療経過、症状の推移からして明らかであるところ、経験則によれば、原告は、右入院中一日三〇〇円の割合による合計一万六五〇〇円の入院雑費を要したものと認めることができる。

3  入院付添費 六万六〇〇〇円

前認定の原告の劉外科病院入院前及び入院中の症状の程度並びに前掲甲第一号証の一〇、証人山村幸雄の証言(一回)及びこれにより成立を認めうる甲第六号証の一、二、証人劉日出也の証言、弁論の全趣旨、経験則によれば、原告は、前記入院中付添看護を要し、その間現実に付添婦らの付添看護を受け、少なくとも一日一二〇〇円の割合による合計六万六〇〇〇円の付添費相当の損害を被つたことが認められる。

4  通院費

前記各病院への通院の際要した交通費については、甲第一一号証の一ないし四、証人山村幸雄の証言(一、二回)によるも未だその金額を証するに足りず、他にこれを的確に認定しうる証拠も存しない。また、証人山村幸雄の証言(一、二回)によれば、原告は、前記庄内病院への通院に、夫である訴外山村幸雄の運転する自動車を利用したことが認められる(他の病院への通院について原告が他の者の付添を受けたと認めるに足りる証拠はない。)が、前認定の原告の庄内病院通院時の症状の部位・程度からすると、原告は、右庄内病院通院の際必ずしも他人の介助・付添を要すべき状態にはなかつたものと解するのが相当であり、従つて、原告は、右庄内病院通院によつては、本件事故と相当因果関係のある付添費相当の損害を被つていないものというべきである。

以上のとおり、結局原告の通院費の請求は、全部理由がない。

三  逸失利益

1  休業損害 一九七万九六二七円

前掲甲第一号証の七、証人山村幸雄の証言(一、二回)及び経験則によれば、原告は、事故当時四二歳で(原告が事故当時四二歳であつたことは、当事者間に争いがない。)、夫である訴外山村幸雄が営む自動車修理・整備業を補助する(経理、納車引取、部品購入、自動車の清掃等を担当)とともに、主婦として家事労働にも従事し、少なくとも昭和四六年賃金センサス学歴計四〇ないし四九歳女子労働者の平均給与額(年額六二万二九〇〇円)と同額程度の収入を得ていたことが認められる(原告主張の収入を認めるに足りる証拠はない。)。ところで、前掲甲第六号証の二、証人山村幸雄の証言(一、二回)及びこれにより成立を認めうる甲第六号証の三ないし二一、第七号証の一ないし一四、第八号証の一ないし五、第九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし二三、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故後長期にわたり全く稼働せず、昭和五一年七月頃の段階においても、夫の自動車修理・整備業の補助は全く行つておらず、家事労働にもほとんど従事していない状態が続いていることが認められ、原告の症状を総合的に考察すれば、原告が右のように長期にわたり稼働していないことも、あながち理解できないではない。(それゆえ、西宮市立中央病院の医師が昭和四八年一一月一日付診断書(甲第二号証の四)をもつて、「原告の就労は未だ不能である」旨診断していることも、直ちに不当とはいえまい。)。しかしながら、原告の症状と本件事故との関連性は前記一に判示したとおりであり、原告の症状のうちの一部については本件事故との間の因果関係を認めえず、また他の症状についても、原告自身の心因的要素が多分に影響を与えている面があり、逸失利益の算定上、公平の原則を適用すべきものと解されるから、原告の症状固定時(前認定の原告の症状の推移からすると、原告の症状が固定したのは、昭和五〇年一一月五日頃と解するのが相当である。)前の被告らが賠償すべき休業損害は、原告の得べかりし収入のうち、事故時から二年間の分についてはその全額、その後右症状固定時(昭和五〇年一一月五日)までの分についてはその五〇パーセントに相当する額であると解すべく、前認定の事故当時の原告の平均収入を基礎として右休業損害額を算定すると、一九七万九六二七円となる。

(算式) 六二二、九〇〇×二=一、二四五、八〇〇・・・・<1>

六二二、九〇〇×〇・五×(八六〇÷三六五)=七三三、八二七・・・・・<2>

<1>+<2>=一、九七九、六二七

2  将来の逸失利益 三三万三〇〇二円

前認定の原告の症状固定時における症状の程度及びそれまでの症状の推移からすると、原告がその労働能力を相当程度喪失した状態が前記症状固定時以後も長期にわたり継続する可能性も否定しきれないところであるが、前記休業損害の項で述べたと同様原告の症状と本件事故との関連性からして、将来の逸失利益についても、被告らが賠償すべき範囲を一定限度に制限すべく、これを症状固定時から四年間の得べかりし収入のうちの一五パーセントに相当する金額であると解するのが相当であるところ、経験則上、原告は、右の期間においても、事故当時と同額程度の収入(年額六二万二九〇〇円)を得ることができるはずであつたと解されるから、右収入額を基礎として原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、三三万三〇〇二円となる。

(算式) 六二二、九〇〇×〇・一五×三・五六四=三三三、〇〇二

四  慰藉料 一二〇万円

本件事故の様態、原告の年齢、受傷・後遺障害の部位・程度、治療経過、原告の症状と本件事故との関連性その他諸般の事情を考え合わせると、原告の慰藉料額は、一二〇万円とするのが相当であると認められる。

第三弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は三八万円とするのが相当であると認められる。

第四結論

よつて、被告らは、原告に対し、金四二〇万一六二二円及びうち金三八二万一六二二円に対する本件不法行為の日である昭和四六年六月二九日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は、右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 畑中英明 二井矢敏朗)

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